墨が腐る
墨の原材料には動物性の膠(にかわ)が含まれています。この膠が主原料である細かいサラサラの煤を固めていってくれるおかげで、固い固形の墨が出来ります。ただしこの膠は動物性のものである為、当然のことながら環境によっては腐ってしまう可能性があります。要はカビが生えます。墨作りは冬場の寒い時期に一気に作り上げ、温度帯が低く、外気が乾燥している間に行います。作られた墨は、その期間ジワジワと乾燥させ、墨内の水分を飛ばし固まっていきます。それは、その後にやってくる夏の暑い時期を越せる、いわば体力作りみたいなもの。乾燥期間中も人の手は絶えず入り続けます。その辺りの匙加減を見誤ると、製造中もそうですが、こういった梅雨の時期に腐る可能性が出てきます。
作り終えてからも市場に出る迄は最低でも1年~3年程度の期間がかかります。乾燥を終えてからもその後、磨いたり、彩色したりする仕上げの工程が控えています。いつも自分は思うのは、この期間のこと。良い意味でも悪い意味でも単なる文房具。その文房具にこれほど時間と人の手間がかかるのも、本当に不思議なことだと思います。、ただし、そこに墨の魅力、墨の価値が潜んでいると自分は思っています。あとは「墨とはそういうものだ」と当たり前の如く受取り、1000年以上続いてきた墨作りに携わってきた方に対して、ただただ敬意を表するばかりです。自分もしっかりそのバトンを引き継いでいきたいと思っています。