七代目の挑戦

雄勝硯の山崎さん

◆山崎さんとの出会い

日々、工房には墨を購入しに来られるお客様はおられますが、墨を取り扱っているだけに、筆や硯を求められる方々も多々おられます。工房内でもそういったご要望に少しでも応えられるように硯を取り扱いたく、普段より親しくお付き合いしている奈良筆「田中筆」の田中さんにお伺いしたところ、快くご紹介して頂いたのが雄勝硯「開和堂」の山崎さんでした。宮城県石巻市の雄勝は国内でも屈指の硯の産地、山崎さんは雄勝硯を長年作られてきた伝統工芸士です。初めてお会いした時からその年齢を感じさせないパワフルさと元気さに圧倒されました。始めてお会いした場所はとあるデパートでの催事内でしたが、そこで山崎さんは硯を作る作業をされていました。

◆作業の様子

実際、目の前で作業中の様子を見させて頂いたのですが、その作業がとにかく凄いの一言。石を削る為の大型の蚤(のみ)でひたすら石の表面を削っていきます。削るのが石なので当然力がいるとは思いますが、肩付近に蚤の底を当てながら身体全体で押し込むように蚤で石を彫っていかれます。山崎さんの御歳は恐らく80近いとは思いますが、年齢を感じさせないぐらいあまりにもパワフルな作業風景に圧倒されました。石がこんなに削れるものかと思うぐらいガンガン削っていかれるので、圧倒され食い入るように見とれているとお客さんが来られると手を止めて大きな声で優しく話かけられていました。作業中の様子とは打って変わって話されている様子を見ていれば自分の中では「物凄く元気な明るいおじいちゃん」みたいな印象でした。ただその裏では、今日に至るまで大変な思いをされてきたのをその時は知るよしもなく、後々知る事になるのでした。

 

◆山崎さんの硯

山崎さんが作られ硯の多くには「蓋」が付いています。蓋といってもプラスチックの類といった蓋ではなく、硯と同じ石で出来ています。硯本体とその蓋は元々同じ一つの石の塊でそれを縦に2つに切りわけ、それで蓋を作成している為、硯の断面と当然ピタッと合います。山崎さんは文鎮等に使って貰えればという事ですが、硯池に墨液がある状態で、密封された蓋をすると墨液的にも状態を少しでも長く保つことが出来るので非常に役立つのが硯蓋だと思います。石を切り出したままの形をそのまま利用されるものも多く、どれも同じ形ではなく、全てが一品ものになってくる為、無造作に陳列されていた硯を見ているだけでも非常に楽しかったです。

 

◆硯蓋に描かれた「一本松」

そんな山崎さんの作る硯蓋ですが、石の表面には彫刻刀で山崎さんが彫られた様々な模様が見受けられます。その中の多くには「松の木」が彫られているものがあります。多くの方がまだ覚えられているかとは思いますが、先の東日本大震災の際にテレビでも散々中継されていた「奇跡の一本松」。まさにあの一本松が硯の蓋に彫られているのです。というのも宮城県石巻市は東日本大震災の際、津波で壊滅状態になってしまった土地。多くの方が亡くなられたのですが、実は山崎さんの奥様もその際に亡くなられていました。その後、仙台の娘さんの元へ身を寄せられ、硯作りを再開される事になるのですが、当時のことを想い、山崎さんの硯の蓋には一本松が描かれているのです。

 

◆今後も雄勝硯を・・・

工房では山崎さんが作られた硯を販売させて頂いていますが、興味持って見られている方には必ず山崎さんの一本松に込められた想いをお話しさせて頂いています。先日お会いした際も相変わらず元気に硯を作られていました。自分にいま出来る事は今迄通り、工房で山崎さんのお話をする事ぐらいしか出来ませんが、これからは山崎さんはもちろん、雄勝硯の為に何か出来る事はないかと考えています。奈良墨と共に、今後も雄勝硯をよろしくお願い致します。

 

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