子どもたちと墨を継ぐ

1400年の歴史を持つ伝統工芸品「固形墨」を受け継ぐ使命を担うべく、錦光園は様々な活動を行っています。 その中で目にした、子どもたちが墨に触れた時のイキイキとした姿。子どもたちが墨について“より深く知る機会を作る”こと、“体感する時間を提供すること”の可能性を強く感じてきました。 これからは錦光園が、子どもたちの「墨を擦る記憶」を作っていきたいと思っています。未来の日本を作る子どもたちに、固形墨の歴史を継いでもらうために。 https://kinkoen.jp/kodomo-sumi/

奈良県の伝統工芸品を未来へつなげよう|奈良墨×東とみプロジェクト2022

 奈良市立東登美ヶ丘小学校は今年、創立50周年を迎える地元奈良の小学校。

 4年生の先生方が工房に来て下さったのは昨年のことで、「奈良の伝統工芸の50年後を考える」というテーマのもとで授業を行っていきたい、そこに協力して貰えないかということで来られたのがきっかけです。

 そこから自分は沢山の可能性を目の当たりにしていきます。

 

 

■『奈良墨 × 東とみプロジェクト』

 タイトルにも挙げたプロジェクト。

 児童たちが伝統工芸に携わる人の人生や、想い、技術に触れ、様々な奈良県伝統工芸品の魅力を深く学んでいき、その上で伝統工芸が直面している課題を捉え、奈良の伝統工芸文化を次世代に受け継ぐため、児童たち自身にできることはないかを考えていくというもの。

 また考えるだけでなく、それら伝統工芸を広める為のアクションまで昇華していくのを目的にしています。

 そこで、県内の伝統工芸である「奈良墨」をテーマに学習を深めていきたいとの依頼が錦光園に来たのでした。

 

 

■小学校で出張墨づくり体験

 まずは、そもそも奈良に奈良墨という伝統工芸品があることを知り、実際に墨に触れてみる授業ということで、出張で小学校へ。

 墨と奈良の関係や歴史、材料の勉強したあとは、墨の原型である生墨に触れ、実際に自分で握った墨を児童全員が作成しました。

 初めて触れる生墨や、墨の実際の製造工程の一部を目の前で見た児童たちは興味深々。

 ただしこの出張体験以前から、先生方が授業の中で錦光園の動画を児童たちに見せて下さったり、墨を使って水墨画を体験してみたり、奈良墨のクイズを出したりなど、より児童たちに興味をもってもらおうと様々な授業を行って下さってました。

 児童たちのより深い関心・学習に繋げたいという先生方の想いがこちらにとっても嬉しい限りでした。

 

 

■リモート授業での質疑応答

 体験の次はリモートでの質疑応答を中心とした授業を複数回に渡り実施。

 事前に頂いた児童たちからの沢山の質問に対し、限られた時間ではありましたが、質問に応えながら、また自分の経歴や考えも踏まえた上でお話させて頂きました。

 

 

 4年生全4クラス合同でのリモート授業ということもあり、限られた時間ではありましたが、前もって頂いていた質問以外に、その場で質問も沢山受けました。

 中には時間の関係で質問が出来ず泣き出してしまった児童も。

 結局、授業あとの休み時間で質問を受け、やりとり出来たので良かったのですが、いかにも子供ながらで可愛らしかったですね 笑

 

 

■奈良墨の今と未来を考える

 実際に墨に触れ、使い、学び、作り手との質疑応答も踏まえた上で次はいよいよ奈良墨の今の課題や、その課題に対して将来何が出来るかを考え話し合う授業へ。

 

 

 写真のような生徒さん達のレポートや教室の黒板はほんのごく一部。

 本当に児童たちがこれまでの授業の中で、奈良墨という産地に対し、危機感を抱きながら望んでくれたからこそ、沢山の感想や意見を出してくれたのでしょうし、この後の素晴らしい展開に移っていったのだと思います。

 

 

 いつも産地の将来に関して、自分1人で紋々と考えていたことを、別の場所でこうやって児童たちが真剣に沢山の意見を出し合って考えてくれていたことを考えると、胸一杯に思いが込みあげてくるものがあります。

 

■体育館でのチーム毎プレゼン大会

 課題を踏まえた上で実際に自分達に何が出来るかを話した後は、チームに分かれて具体的に提案内容をまとめる作業へ。

 後日控えるプレゼン大会に向けて生徒さん達だけで話し合い、プレゼン資料づくり。

 授業中お邪魔して資料を作っている際の様子を見学させて頂いたこともあったのですが、クラス全員がパソコンを使い、パワポ資料をガンガン作ってくれていました。

 小学生らしく「手書きの可愛いプレゼン資料とかんなだろうなー」と思っていた自身の感覚がガラガラに崩れ去るのでした 笑

 「最近の小学生達は凄い!」としか言いようがないですね。

 

 

 プレゼンは体育館で2日間に渡り行ったのですが、チーム数はなんと約30チームほど。

 プレゼンの審査員は自分ただ1人、プレゼンターは4年生全員の前に登壇してプレゼンを行います。

 

(※以下は先生が児童に出されていたプレゼン大会の告知)

 

 

 本番直前の休み時間では校内廊下のあちこちで練習しているチームを散見しました。

 課題に対して自分達が考えた提案内容を全員の前で発表するというのは物凄く貴重な経験になると思いますし、そしてそれに向けて一所懸命になって練習している児童たちの姿を見て本番前に既にジーンときていました。

 

 そしていよいよ本番。

 

 いずれのチームも当然緊張しながらプレゼンを行ってくれてましたが、どの内容もただただ素晴らしいの一言。

 何より児童たちの必死に頑張っている姿を見て、ただただこちらは感動するのみでした。

 ただ感動にふけるだけでなく、全ての発表にコメントしていくのは中々大変だったのですが 笑

 とはいえ内容云々よりも、課題に対して自分達が周りと協力しながら考え、作成した提案内容を全員の前で発表するというのは、児童たちにとっては物凄く貴重な経験だったのではないでしょうか。

 

 それぞれ提案内容も素晴らしいものがあり、中には大人の自分達なんぞには絶対に考えつかないような内容も。

 毎回思うのですが、子供の純粋な発想や感覚は本当に素晴らしいの一言です。

 また以上に、授業の中で児童たちの為に、こういった設えをされた学校や先生方にはただただ頭が下がる思いでした。

 

 

■選ばれた提案内容をいざ実行

 プレゼンを経て選ばれたチームの提案が出揃い、いよいよ実行に向けて動き出しました。

 選ばれたのは以下の4つ。

 

①3年生に対して墨のことを伝える校内イベント

②外部に向けた墨の情報をまとめたチラシづくり

③平城旧跡での一般向けワークショップ

④新商品開発

 

 惜しくもプレゼンで選出されなかったチームのメンバーも、それぞれ残った4チームに合流して、今度は4年生4クラス、クラス横断という柔軟なチーム編成と何だか凄いことに。

 

 4つのテーマに搾られたのち、各チームごとで具体的な実施内容を詰めていく中、再度、学校の授業に参加させてもらい生徒さん達からの相談やアドバイスをさせてもらったのですが、とにかく熱気が凄かった--

 何か目標に向けて集中して動く子供達のエネルギーというのは本当に凄いですね。

 この半年、何度も授業に参加させてもらいましたが、行く度に自分がそのエネルギーをもらっている感じがしてなりませんでした。

 

 

■最後に

 当初は授業を進めながら考え、児童たちが課題について話し合うというものでしたが、「どうせなら児童たちが考えてくれたものを本当に実現させていこう」ということになっていきました。

 

 それも全ては先生方の熱意があったからこそ。

 

 恐らく、先生方の負担は増えることが予想されたとは思いますが、児童たちに対して出来る限りのことをしてあげたいという気持ちが無いと中々出来ない判断だったと思います。

 大人が子供達に可能な限り、何かを体験・経験させてあげたいという気持ちは、自分も小さい子供を持つ身として深く共感しましたし、それを実行に移し続けられた先生方に心から敬服します。

 自分の立場でいうと、産地の将来といった目的などはあるのですが、それ以上に今回の素晴らしい経験が児童たちの今後の糧の一つになってくれれば良いなと心底思っています。

 

 そして本番はいよいよこれから。

 

 児童たちの成果発表を1人でも多くの方に見て頂けるよう願っています。

 

 

《告知》その①

■新商品「銀河(ぎんが)」

 先にお伝えした新商品開発。素晴らしい提案を受け、実は1月から実際に新しい墨を製造しています。

 児童たちが提案した新商品の墨、その名も「銀河(ぎんが)」

 中身は何とラメが入った墨!!

 

 

 新商品の開発を考えた際、どうしても自分の感覚ではまず、その外観・形から考えてしまいます。

 ただ、この児童たちからの提案の墨は、磨った際の墨液の黒色の中に星が見え、宇宙を表すという、壮大スケールと何よりも墨液での表現を主とした商品です。

 

 

 アーティスト顔負けの着眼点が素晴らしく、沢山の提案の中から選ばせてもらい、現在、実際に製造中です。

 墨木型の製作は、自分の師匠でもある墨型彫刻師の中村雅峯さんに依頼し、本格的な墨木型を作成。

 

 

 「銀河」という文字のフォントは児童たちが提案してくれた資料の中からそのまま使用しているので他にはない味がでてます。

 試作中での失敗や課題も多々あったのですが、それらはまだ別の機会でお話出来ればいいですね。

 

 なお上記の資料は児童たちが提案してくれた提案の一部ですが、全てが全てこの通りに最終出来上がるかは分かりませんのであしからず 笑

 

 なお、まだ製造途中の為、販売は9月頃の予定ですが、数量限定の商品となる為、先行予約販売とさせて頂きます。

 ご興味ある方は以下の錦光園の問い合わせ先からお申込みお願いします。

 

◇錦光園WEBサイト問い合わせ

https://kinkoen.jp/contact/

(※問い合わせ内容に今回の墨の件について記載して頂ければ返信させて頂きます)

 

 

なお、試作品にはなりますが、後述するイベント会場で商品をお披露目する予定ですのでお楽しみに。

 現物をご覧になられたい方は是非、会場にお越し下さい。

 

 また、こちらの商品売上の一部は、今回提案をして下さった東登美ヶ丘小学校に寄付させて頂く予定です。

 今回のような児童たちによる活動、その今後の一助になっていければ幸いです。

 

 

《告知》その②

ワークショップイベント 「奈良墨わいわいフェスタ」 

 

 一般の方にも奈良墨を広めようと外部でのワークショップイベントも実施することが決定してます。

 

 場所はなんと平城宮跡!!

 

 「奈良で人が集まる場所」でイベントを開催したいというのが児童たちからの希望だったのですが、まさにその通りの場所での開催となりました。

 

 内容は以下チラシの通り。

 申込し〆切は17日までとなっていますが20日まで延長されるそうですので、是非奮ってお申込み、ご参加下さい。

 

◇奈良墨わいわいフェスタ申し込みフォーム

https://docs.google.com/forms/d/e/1FAIpQLSc-GQ-hpr5JrtdjldyZghUmgJfZlX6UakDBLBe2nhrRvAb6CQ/viewform

 

 

 奈良墨・奈良筆・奈良団扇を使った贅沢なワークショップを行うのですが、その当日の運営はなんと児童たち!!

 

 自分もどのような会になるのかは想像出来ませんが、校内でも当日のリハーサルなど既に準備はしてくれています。

 自分もお手伝いで参加させて頂きますが楽しみでしかありません。

 

 前述した児童たちが提案した新商品「銀河」もお披露目する予定です。

 錦光園も当日は現場で墨の製作実演などのブースを構えていますので、是非遊びに来て下さい。

 

 お1人でも多くの来場をお待ちしています。

 

 他にも児童たちの取組は沢山あるのですが、ここだけでは収まりきらないのでまた別の機会でお伝えさせて頂きます。

 今後もそれらをレポートしていきたいと思っていますので是非お楽しみに。

 

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