墨の選び方
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固形墨の特徴
似て非なる「固形墨」と「墨汁」。固形墨には固形墨の、墨汁には墨汁のそれぞれの良さがあります。
使い分けをして頂くのが一番良い方法ですが、ここでは一般的な墨汁には無い「固形墨の特徴」をご紹介いたします。
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固形墨の墨色と濃淡
「墨に五彩あり」と言われるほど、固形墨の墨色は沢山の色味を持っています。
その色の幅は一言で言うとまさに繊細。非常に味わい深く、奥深い色の幅を持っています。単純な「黒」という中に多くの表現の幅を持っているからこそ、字を書くだけでなく、水墨画といった絵などでもその色味の表現の幅をふんだんに活かした作品などを生み出すことが出来ます。また色味だけでなく、使用する水の量で濃淡の幅を使い手が自在につくることが出来るのも大きな特徴の一つです。 -
墨の滲み
固形墨ならではの独特の表現力として、墨の「にじみ」があります。
「にじみ」とは、筆で書かれた字の外側から、水と一体化した墨液が更に外側へ流れ出て、紙の繊維の中を這うように滲み広がっていく様のことを言います。その滲みこそが、書かれた作品に更なる奥行きを持たせることとなり、中にはその滲みをふんだんに利用した作品を作られる方もおられるぐらいです。世の中には沢山の筆記材があるものの、このような滲みといった表現力を持つ筆記材は世界に類を見ない大変貴重な筆記材といえます。 -
墨の文字は1000年残る
実際に奈良の正倉院には、千年以上前に墨文字で書かれた木簡や和紙が残っており、その文字は未だに色褪せることなく今日まで伝わっています。墨で書かれた作品の圧倒的な耐久性は他の筆記材に並ぶものがなく、唯一無二の筆記材だといえます。
こちらは墨の主原料の1つである「膠(にかわ)」によるもの。膠は水との相性がよく、書かれた文字を土台となる木や紙の繊維の奥深くへ運び込み浸透させる働きを持っています。一度繊維の中に浸透して固まった文字は消えることはありません。まさに材料に膠を含む固形墨ならではの耐久性と言えます。それは日本の歴史を紡いできた墨の偉大さとも言えます。 -
墨を磨る時間を愉しむ
墨汁との決定的な違いはまさにこの「墨を磨る時間」。
日本には沢山の「道」があります。書道・華道・茶道・柔道・剣道…それら全てが物事を行う前や、その過程の最中に必要とすべき礼儀・作法が含まれています。礼儀・作法にのっとり、気持ちを鎮め、心を整えるからこそ目の前の物事に集中して取組むことが出来るのです。
日本古来より存在する「墨を磨る時間」というのはまさに書に向きあう為に「心を整える時間」そのものといえます。利便性を追及し過ぎた現代において、決して失ってはいけない時間。その一つが墨を磨る時間とも言えるのではないでしょうか。
墨の選び方
使う方にとってどんな墨が良いかはさまざまです。
以下を参考に、ご自身が求める墨の条件にあったものを以下の中から選んで頂ければ幸いです。
墨の大きさで選ぶ
墨の大きさを表す単位は「丁(ちょう)」。これは重さが基準になっており、1丁型の墨は15gです。
表はあくまで基本で墨によっては若干の個体差があることだけご了承下さい。
墨の大きさ | 縦の長さ | 横の長さ | 厚み | 重さ |
---|---|---|---|---|
1丁型 | 78mm | 19mm | 8mm | 15g |
2丁型 | 92mm | 24mm | 11mm | 30g |
3丁型 | 105mm | 28mm | 12mm | 45g |
4丁型 | 120mm | 31mm | 13mm | 60g |
5丁型 | 135mm | 33mm | 13mm | 75g |
墨の種類で選ぶ
墨は「煤(すす)」と「膠(にかわ」)と「香料」という原材料から出来ています。一般的には「煤(すす)」の種類の違いによって墨の分類はなされます。
名称 | 材料 | 詳細 |
---|---|---|
油煙墨 | 胡麻油 | 胡麻油を使用。 |
菜種油 | 菜種油を使用。 | |
鉱物油 | 鉱物性油を使用。 | |
松煙墨 | 赤松 | 紀州産。老松と生松を使用。 |
青墨 | 染料 | 染物で使用される藍汁を使用。 |
顔料 | 日本画で用いられる顔彩を使用。 |
市場に出回る墨の多くを占めるのが菜種油を原材料とする「菜種油煙墨(なたねゆえんぼく)」です。また油煙墨の中には胡麻油を使用した「胡麻油煙墨(ごまゆえんぼく)」があり、他にも桐油などでつくられることもあります。「松煙墨(しょうえんぼく)」は赤松の木を燃やして採取します。国産の松煙は現在、国内でも特定の事業者、特定の場所でしか生産されていいない為、大変希少価値が高いとされています。青墨は墨の基本原材料へ更に、藍染の藍汁や顔料等を加え色付けしたもので、書かれた文字はやや灰色がかった色合いが特徴でよく水墨画などで使用されることが多いです。
墨を使用用途で選ぶ
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かな・細字用
一般的に、仮名文字を書く際には、上から下にサラサラ書いていけるように、材料となる煤の粒子が細かく、膠の粘り気が少なくものを選ぶのが良いとされています。用途的にもそれほど大量に墨を磨るものではないので、比較的小さいサイズの墨から選んでいます。
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写経用
写経用では仮名文字同様、膠の粘り気が少なく滑らかに書ける墨が適しており、それでいて黒色が濃く、はっきりと映えるものを選ぶのが良いとされています。写経を行う際の墨の使用量としてはそこまで必要ではないので小さな上質の墨をここでは選んでいます。
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漢字・大字用
大きな作品に使用する際や、漢字などを書く際には、色濃くしっかりとした黒味が栄える墨が適しています。また大きな作品を書く際は、当然の事ながら大量の墨を磨る必要があるので大きな墨を選ぶべきです。ここでは比較的大きい墨や黒の色味が濃い油煙墨を中心に選んでいます。
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絵手紙・水墨画・書画用
最近、女性の方を中心に絵手紙などは大変な人気があります。女性ならではの柔らかい色味や鮮やかな色彩を表現する作品には青墨系の墨が向いています。色味が徐々に青味がかっていく松煙墨や、染料や顔料を混ぜ合わせた青墨などからここでは選んでいます。