固形墨をつくり続ける
錦光園の固形墨づくり
松煙墨、油煙墨の製法を守った固形墨づくり
墨液主流の昨今ですが、錦光園では頑なに、伝統的な製法にのっとった固形墨づくりにこだわっています。
錦光園は、奈良でも由緒ある墨工房「古梅園」の職長を務めておりました四代目が独立創業して以来、松煙墨、油煙墨の製法を守ってまいりました。現在は六代目の長野墨延が墨づくりを行っております。
今後もこの固形墨の製造一筋に、良い墨を手間暇を惜しまずつくり続けていきたいと考えております。
▶︎墨・奈良の歴史
-
ひとつひとつ職人による手づくりで
材料の性質上、墨の製造時期は1年の中でも最も寒い冬の時期に限られています。
底冷えする奈良の冬の寒さの中、かじかむ手を真っ黒にしながら、職人が1つ1つ手づくりで墨を作っています。
全ては皆様に喜んで頂けるような良質の墨を作るため。
これからも錦光園は職人の手づくりにこだわり、1つ1つ心を込めた墨づくりを続けていく所存です。 -
希少な純国産の松煙墨もつくり続けています
歴史上、日本における「はじまりの墨」ともいえる松煙墨。
松煙墨を用い、書いた際の色味は何とも言えない趣き深い味わいがあります。
ただし、油煙墨墨の台頭や固形墨そのものの需要減少により、原材料である松煙はもはや国内ではほとんど生産されていないのが実情です。
錦光園では、そんな日本の墨の歴史そのものと言える松煙墨も知って頂こうと松煙墨づくりにも力を入れています。
入手困難であり、大変貴重な純国産の松煙にこだわった錦光園の松煙墨を是非お試しください。 -
固形墨の新たな挑戦
従来の固形墨づくりを地道に行いつつも、書道以外でも固形墨の用途の幅を広げるための活動も行っています。
書くだけに留まらない墨の魅力である、美術工芸品的な要素、墨そのものの香り。
それらに着目し、インテリアや贈答品としての固形墨づくりにも取り組んでいます。
固形墨に拘りつつも、墨がもつ新たな可能性に今後も挑戦し続けていきます。
墨の原料とつくり方
ここでは当工房で主に作っております 油煙墨の製法について、
具体的にご紹介いたします
暖かい時期に製造すると墨の成分の一つである膠」が腐ってしまうので、製造期間は暑い時期を避けた10月頃から5月頃までです。ちなみに特に極上の物ができるのは、最も寒い2月頃です。
-
01 採煙
土器の蓋に付着した煤を取る
菜種油や胡麻油などを「かわらげ」と呼ばれる土器に入れ、灯芯を差して火を灯し、上から覆っている土器の蓋に付着した煤を取ります。
-
02 膠の溶解・原料の撹拌
水と膠などを入れて約4時間程かき混ぜながら湯煎し、膠の溶液を作る
動物性の膠を一定の温度で均等に溶かすため、沸騰した湯の中で「タンポ」と呼ばれる釜の中に一定の水と膠などを入れて約4時間程かき混ぜながら湯煎し、膠の溶液をつくります。
その後、煤と香料と膠の溶液を入れて撹拌し、ローラーにかけて充分に練り合わせます。更に足で踏みこみ、手揉みも行いながら生墨をつくります。 -
03 木型・型入れ
文字や図柄が彫られた梨の木製の木型に入れる
墨の一丁型の製品の目方は約15g(4匁)ですが、木型に入れるときは生墨に水分が含まれているので、約26g入れられるように大きめに作られています。
ここでは、生墨を定められた大きさに計量し木型に入れます。
この際、生墨の中に空気が入らないよう十二分に練ることが重要です。 -
04 灰乾燥
小型で1週間、大型で3~5週間程度かけて、少しずつ水分を乾燥させる
木型から取り出した生墨は水分を吸収させる為、新聞紙と新聞紙の間にはさみ、やや水分を含んだ木灰に埋め、以降は少しずつ乾いた木灰に埋め変えていきます。
この灰乾燥は小型で1週間、大型で3~5週間程度続けられます。
一気に自然乾燥させるとひび割れが生じるため、このような手法で少しずつ水分を乾燥させます。 -
05 自然乾燥
さらに、小型で3か月から、大型で6か月近く自然乾燥させる
約6~7割の水分が除かれたら灰乾燥を終え、小型で3か月から、大型で6か月近く自然乾燥させます。
-
06 磨き
上薬を塗り、木炭の火で炙ってから蛤の貝殻で磨く
自然乾燥を終えた墨は、表面に付着している灰やその他の不純物を取り除く為に水洗いした後、上薬を塗り、木炭の火で炙ってから蛤の貝殻でよく磨きます。
-
07 彩色
金粉・銀粉、その他顔料を使用し図柄や文字に彩色を施す
磨かれた墨は水洗いの際に含まれた水分を取り除く為に、3日~1週間程度、井型に組み、空気乾燥させた後、金粉・銀粉、その他顔料を使用し図柄や文字に1丁ずつ彩色していきます。