13年ぶりに帰ってきた香り墨
昨日とある方の展示会にお邪魔してきました。その方は昨年のクラウドファンディングでお世話になった方。自分もお会いするのは初めてです。ただ、その方から事前に少し話を聞いていたのですが、錦光園と少なからず関わりがあるとのこと。初めてお会いしてご挨拶の後、渡されたのが10年以上前に自分の親父が造った墨。そこで自分の知らなかったことが全てが繋がり、自分もご縁を感じざるをえませんでした。
その方は13年前に錦光園に来られ、自分の親父に特注の墨を依頼されたそうです。その墨というのが「ラベンダーの香りがする墨」。いつかは忘れましたが、自分が工場内の整理をしたいた時に見つけた小さな袋。その中には花の香りがする香料が入ってました。墨づくりの基本的な造り方としては、主原料となる煤に溶かした膠を入れ、膠の臭い消しとして香料を入れ混ぜ合わせた墨の粘土を手で形を整形していきます。基本は龍脳と呼ばれる香料が一般的な墨の香りではあるのですが、それ以外の香料を入れて墨を造ることも可能です。親父に聞いてみると「その香料で墨を造ってくれっていう依頼が昔あったんや」と言ってました。その時は「ふーん」としか思っていなかったのですが。
話が変わって昨日、その方とお会いして当時のお話を聞きました。その方が奈良に来られた10年以上前は、まだ自分は墨屋を継いでおらず、前職で東京にいました。東京で自分の息子が働いている旨をその方にもお話していたらしく、親父と自分のことを話していたことも教えて頂きました。SNSやクラウドファンディングなどで自分の過去の経歴を掲載していましたが、その内容も見て自分がその後、跡を継いだことを何年も経ってから知って下さったみたいです。どこで繋がるご縁か本当に分からないものですね。
当時造った特注墨は販売用として計画されていたそうなのですが、諸々の理由で断念されることになったそうです。そんなこともあり、お会いした際に当時造った墨の残りをそのまま持ってきて下さいました。併せて、当時その特注墨の為に、特別に制作した菓子木型の木型も一緒に。そして、「何かのお役に立てて欲しい」ということで墨と木型を譲って頂くことになりました。まさに10年以上ぶりに当時のそのままの状態で親父が造った墨が錦光園のもとに戻ってくることになったのです。箱の中を開けて墨の香りを嗅いでみると、10年以上経ってはいましたが、まだ十分香りは残っていました。3年ほど前に造った「香り墨Asuka」。その更に10年前に既に香り墨が造られていたのは何だか感慨深いものがあります。
自宅に戻ってから親父に事の顛末を伝えたところ、よく覚えていました。「あの時の子か~、覚えてるわ~」と嬉しそうにしておりました。過去のことをあまりよく覚えていないことが多い親父が覚えている時点で、親父にとっても印象深かった仕事だったんだと思います。過去、親父がそうやって関わった方と何年もしてから自分も関わりが持てるのは息子としても嬉しい限りです。また関わって下さった方も当時のご縁を未だに大事にして下さっていたのは物凄く感慨深いものがあります。
不思議なご縁で13年ぶりに錦光園に帰ってくることになった香り墨。ここからは自分が責任もって、この墨たちを新たなご縁のあった方々に送り出していきたいと思っています。
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