七代目の挑戦

古楽面 中坊竜堂さん

◆中坊竜堂さん

昨年発売した錦光園の商品「香り墨Asuka」ですが、墨作りの命ともいうべき、その型作りで大変お世話になったのが、奈良の古楽面作りの第一人物である「中坊竜堂(なかぼうりゅうどう)」さん。この方の協力無しでは確実に今回の商品を世に出る事はありませんでした。中坊さんは奈良で50年近く古楽面作りに従事され、その作品は県内はもとより海外でも評価されている凄い御方です。

 

◆依頼のきっかけ

新しい商品の構想はあったものの、肝心の型の作成が、通常の墨に対してあまりにも立体的過ぎたのが難点でした。その型の作成に非常に困難し途方に暮れていたところ、とある施設で中坊さんの作品を見て「これや!」と思い、誰の作品かを調べて、どういう方か分からぬまま電話していました。見ず知らずの人間がいきなり電話してきてその後すぐに工房におしかけて中坊さんもびっくりされていたと思います。そこで今回の趣旨を説明し、型作りをお願いしたのがそもそもの始まりです。

 

◆墨運堂さんの「頑固一徹長屋」

当然の訪問でいきなりの依頼、多分断わられるかなと正直思ったのですが意外にもあっさり了承して頂きました。古楽面自体の作成ではなく、墨を作る為の型という物凄く特殊な依頼をさせて頂いたのですが、中坊さんは奈良の墨屋さんとも深いつながりを持たれている方で墨への理解も非常にある方でした。その墨屋さんというのが墨運堂さん。西の京にある大きな墨屋さんなのですが、墨運堂さんの敷地内には「頑固一徹長屋」という素晴らしい工芸士さん達の工房施設があります。墨に限らず、奈良の他ジャンルの伝統工芸を扱われており、一般の方が来られて見学もできるという墨運堂さんならではの素晴らしい取り組みをされています。聞けば中坊さん、元々その墨運堂さんの頑固一徹長屋におられたそうで、当然の事ながら墨の事にも詳しい方でした。当然の事ながら錦光園の事はご存知では無かったのですが、奈良の墨屋さん、そしてその製造工程も把握されておられる方でしたのでこちらの意図がどういうものかをすぐに理解して頂けました。

 

◆「若い人が頑張ってるんやから」

あまりにも唐突な、そして特殊な依頼をさせて頂いたにも関わらず「頑張ってみるわ」と言って頂いたのは本当に感謝しかありませんでした。その場におられた奥さん共々言われていたのは「こんなに若い人が頑張ってるんやから応えやんとあかん」。見ず知らずの人間にこういった言葉をかけて下さったのはもの凄く嬉しかったです。その後も、中坊さん宅には何度も訪れる事になるのですが、その度に励ますように何度も言われていたのを今でも覚えています。ご本人はどう思われていたのか分かりませんが、自分の中ではその言葉が物凄く励みになっていました。

 

◆何度も手直し

その後、作成に取り掛かって頂いたのですが、初めて作成するのものなのと、こちらのよみの甘さ等から何度も何度も手直しをして頂きました。今から思えば大変失礼な話ですが、その道の第一人者の方に何度も修正のお願いをさせて頂いたのは本当に失礼な話だったと思います。中坊さん自身、他の作品の製作途中だった事もあり、お忙しい中、墨の製造時期に合わせて今回の依頼を引き受けて頂き、それなのに何度も修正のお願いをしていたのは正直、冷や汗ものだったのですが、それでも中坊さんは真摯にこちらの要望に1つずつ応えて頂きました。「依頼者からのお願いやから」と苦笑いしながら「これはもっとこうした方がいいんとちゃうかな」と絶えず前向きに製作のお話をして頂けました。「これも勉強や」「まだまだ自分も修行中やからな」と笑いながら言われていましたが、その道の大ベテランを目の前にそんな事を言われるとこちらも何も言えず、ただただ頭が下がる思いでした。モノ作りに対する真摯な姿勢は、ジャンルを超えてまさにお手本とすべきもので、そこは本当に身に染みて学ばせて頂きました。その姿勢は尊敬の念しかありません。

 

◆「香り墨Asuka」完成

その後、構想・作成に数か月費やしましたが、中坊さんのおかげでついに完成し、早速墨作りを開始しました。あまりにも特殊な型だった為、今度は墨の製造の段階で問題が多発しましたが、何とか満足いくものが出来るものが更に2か月ほど経過した後出来上がりました。出来上がった際、早速中坊さんご夫婦に品物を持っていったのですが、物凄く喜んで頂いたのは今でも忘れません。製造の段階でも非常に困難な状況は多々あったのですが、御二人のご厚意と、中坊さんのもの作りに対する姿勢を見続けていただけに、自分も諦めず、工房内で試行錯誤を繰り返して何とか完成出来ました。

 

◆ご夫婦に感謝

中坊さんご夫婦には本当に感謝の言葉しかありません。製作のやりとり上、何度も中坊さん宅にはお伺いさせて頂いていましたが、単なる仕事の依頼を越えて、最後はお二人にお会いしたくて伺わせて頂いていたようなものだったと思います。それまでの励ましの言葉は勿論、奥さんが「いま目一杯頑張ってたら勝手に周りからいいお話が来るから」と、その時言われていましたが、その甲斐あって、いま本当に良いご縁を周りから頂いています。「自分達も若い時頑張ったからいまがあるんよ」とご夫婦揃って笑いながら言われていました。今回のAsukaを通じ、御二人とご縁が出来た事は自分にとっての財産だと思っています。

このページのトップへ

オンラインショップ